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月食観測 享和二年二月十六日(1802/3/19)

月食 食甚 この月食(部分食)の前後の数日太陽の午中、夜は恒星を観測しています。それも忠敬さんは歴局で、郡蔵は多分隠宅で並行して観測したものです。
 この年の8月1日能代での日食観測のため予行演習を兼ね内弟子の訓練だったのでしょう。
 ⇨ 測量日記の当該部分高橋至時の遠大な日食観測計画

 2月13日~18日の太陽午中観測値


 それぞれの望遠鏡には「食測定分儀」を取付け、「垂揺球儀」(原書では垂球)の行数を記録しながら観測。その値を記録した唯一のデータです。
 観測はそれぞれ1人ではできません。内弟子総動員だったと思われます。当然歴局でも観測したはずで、歴局には数セット観測機器があったのでしょう。観測データが残っていないのは歴局の火災で消失したと推測しています。当然大坂の間天文台でも観測したはずで、こちらのデータは?


月食観測データ雑録原文

 上のリンクは国宝雑録(千葉県香取市 伊能忠敬記念館所蔵)の以下の表示データの原文と解読です。


忠敬観測サマリ

no 名称 食率(月明)
備考
垂揺球儀行数 午中差 午中から経過
時  分  秒
備考
1 太陽午中 324,353 南北蒙見榎故以星行与黨日太陽赤道度補之
2 初虧 19時08分27秒 342,204 17,851 7 10 54 月面が欠けはじめる瞬間
3 食甚 20時16分18秒 345,329 20,976 8 26 20 食分が最大になった瞬間
16分は26分の記載ミスでは?
4 復円 21時44分09秒 348,555 24,202 9 44 12 月面がもとの円形に戻る瞬間

 この日の太陽午中は「南北蒙見榎故以星行与黨日太陽赤道度補之」”南北が濛のため仕損じたので「星行」と「当日の太陽赤道度」とで補う”(訳)とあり、計算値としている。「濛」とは時期的に黄砂かもしれない?
 初虧しょき食甚しょくじんも曇で観測できなかったので計算値としている。
 但太陽一日行垂球 59,656行と記載している。
 食分  四分66秒 右暦局推歩。13日から18日までの午中の平均値測から垂揺球儀の1日の行数を59,656行とし、忠敬さんは歴局で観測。
 443,665 - 145,397 = 298,268 途中地震で垂球が止まった値 12行 を加えると 298,280行 5日間であり、5で割ると 59,656行/日となる。

【注意】「午中から経過」時間は59,656行/日とした計算値です。忠敬さんが記載した時刻と少々異なります。
 忠敬さんなど江戸の天文学者は24時間/日、午中から午中の中間を 0時 としていたことが判明。


忠敬観測

no 名称 食率(月明)
備考
垂揺球儀行数 午中差 午中から経過
時  分  秒
備考
1 太陽午中 324,353 記載はないが上記値とした
2 初虧 大曇天 「大曇天」とあり観測できなかったと思われるが
3 食甚 観測できなかった
4 食 四分31 39糸 345,522 21,169 8 30 59
5 食 三分74 42糸 346,450 22,097 8 53 23
6 食 三分58 44糸 346,696 22,343 8 59 19
7 食 三分14 47糸 347,012 22,659 9 6 57
8 食 二分94 48糸 347,065 22,712 9 8 14
9 食 二分85 49糸 347,110 22,757 9 9 19
10 食 二分55 51糸 347,200 22,847 9 11 29
11 食 二分41 52糸 347,250 22,897 9 12 42
12 食 一分82 56糸 347,646 23,293 9 22 15
13 復円 348,557 24,204 9 44 15 68糸半か?

平山郡蔵観測

no 名称 食率(月明)
備考
垂揺球儀行数 午中差 午中から経過
時  分  秒
備考
1 太陽午中 324,353 0 0 0 暫定的に忠敬さんの値とした
2 初虧 曇で観測できず
3 食 四分44 23糸 345,382 21,029 8 27 36
4 此日慥
食甚四分68
22糸 345,490 21,137 8 30 13 「この日たしかに食甚」と訳
5 食 三分71 26糸 346,339 21,986 8 50 42
6 食 三分59 26.5糸 346,370 22,017 8 51 27
7 食 三分47 27糸 346,696 22,343 8 59 19
8 食 三分22 28糸 347,012 22,659 9 6 57
9 食 三分  29糸 347,110 22,757 9 9 19
10 食 二分86 29.5糸 347,135 22,782 9 9 55
11 食 二分74 30糸 347,200 22,847 9 11 29
12 食 二分61 30.5糸 347,250 22,897 9 12 42
13 食 二分50 31糸 347,267 22,914 9 13 6
14 食 二分40 31.5糸 347,346 22,993 9 14 61
15 食 二分33 31.7糸 347,400 23,047 9 16 19
16 食 一分90 33糸 347,523 23,170 9 19 17
17 食 一分53 35糸 347,675 23,322 9 22 57
18 食 一分29 36糸 348,007 23,654 9 30 58
19 食 一分08 41糸 348,536 24,183 9 43 44
20 復円 348,587 24,234 9 44 58 41糸半か?忠敬より+46秒

 雑録に「観星鏡  伊能勘解由測 月金径用繭糸六八糸半」
「望遠鏡  月金径用蚕糸四十一糸三三三(1/3) 平山郡蔵測之」は下図のように解釈した。金星1個分が食測定分儀の1糸のことか?望遠鏡の倍率でもある。

月と金星

日・月食観測機器

食測定分儀

食測定分儀
左右共に国宝 千葉県香取市 伊能忠敬記念館所蔵

 望遠鏡の先端に着装し、上表の日・月食の進行状況(食率)を観測した。

垂揺球儀

垂揺球儀
 正確な振子時計。振子の振動を行で表し、太陽の午中から午中までの1日の行数は 59,656行としている。
 1行≒1.46秒

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